キャストインタビュー
アニメーション作品である「iichiko story」を形作る上で重要な「声」を担当する声優陣にインタビュー。春日つぐる役の小林裕介さん、ひろ役の白井悠介さん、そしてツッチー役の天﨑滉平さんにお話を伺いました。
バンドを題材にした作品でしたが、脚本を読んで感じた印象をお聞かせいただけますか?
白井:すごく希望を感じました。バンドや音楽に限らず、スポーツなどでも若い頃に何かに打ち込んでいたという人は少なくないと思うんです。夢があって目指していたけれど、挫折したり、何らかの理由で諦めなければいけなくなった。でも、夢を追いかけていた時間は無駄じゃなくて、人生に活かされている、次につながっている。そんな希望をあらためて教えてくれるストーリーだと感じました。
天崎:仲間がいるっていいなって。学生時代に仲がよかった友人も、大人になるとなかなか会う機会も少なくなってしまう。でも、彼らは3人で集まって、お酒の席で飲んでいて「また音楽を一緒にやろう!」と意気投合できる関係性をつづけている。すごく素敵だなと感じました。脚本を見て、自分も昔の仲間を誘ってお酒でも飲みに行きたいなって思いました。
小林:僕は一度夢をあきらめて社会人になった経歴があるんです。なので、ストーリーそのものにシンパシーを感じるところはありました。自分がやりたいことがあっても、なかなか思い通りにいかない人の方が多いと思うんです。そんなときに、仲間がいると勇気をもらえますし、後押しもしてくれる。仲間との関係性やバンドとしてひとつの目的に向かっていくかっこよさを、物語から感じました。
声優として活動をはじめる前に思い描いていた夢はありましたか?
白井:僕は高校2年生で声優になることを決めて、卒業後は専門学校に通いました。でも、声優よりも俳優の方が楽しそうだなと、一度は寄り道をしました。結局うまくいかず2年ほどで声優の道に戻りました。そんな紆余曲折もあってデビューは遅くなってしまったのですが、声優という夢はやめずに追いかけていてよかったなと、振り返ることもありますね。
小林:声優になるという夢は高校時代には描いていたのですが、進学は理工系の大学でした。そのまま就職したのも、まわりの波にのまれて就活をしたから。ただ、昔から機械が好きだったこともあり、なにかモノをつくる職業につきたいというのはありました。車やバイクといった乗り物を運転するのも好きで、子どもの頃はレーサーが夢でした。
しかし、数年勤めてから、やっぱり自分の体をつかった仕事をしたい「声優になりたい!」とあらためて思ったんです。アニメでアフレコをして、自分しか演じないキャラをなにかひとつ手に入れたいという、高校時代の夢をもう一度追いかけたいと思ったんですよね。
ある原作者さんがおっしゃっていたことなのですが「原作者はすべてを平等に見なければならない、ひとりのキャラを考えているのは誰よりも声優なんだ」と。基本ひとつのキャラに当てられる声優はひとり。キャラクターを大切にできる声優になりたい。その憧れは昔からあって、今も変わりません。
天崎:はじめて具体的に思い描いた夢が声優でした。20歳から養成所に通いはじめるのですが、高校時代はアニメが好きだということもあまり言えなくて。まだ少数派だったんですよね。だから、声優になるという夢があることも言えなかった。ちょっと気恥ずかしかったですね。
でも養成所に行ってみたら共通の夢を持った人ばかり。むしろ夢をいかに熱く語るかが大事なくらい。語れないのは大丈夫?って(笑)。夢を追いかける人たちばかりという刺激的な場に自分の身を置くことで生活が楽しくなりました。
昔を思い出す、忘れられない曲はありますか?
小林:サスケさんの『青いベンチ』ですね。大学生の時に、好きな女の子と友人4人でドライブに行ったんです。どこかの公園で音楽が流れていて、ちょうど『青いベンチ』がかかったんです。「この曲好きなんだよね」って言ったら、その女の子が「歌ってよ」って。すごくほめてくれて嬉しかったんですけど、歌詞は悲しい曲なんですよね。結局、その人とは何もなくて、あのときに運命は決まっていたのかって(笑)。
白井:僕は上京してきたタイミングで聞いていたのは、アンダーグラフさんの『翼』ですね。大ヒットしていて、今でも一人暮らしをしていたあの頃を思い出します。レンタルビデオ屋でアニメをいっぱい借りて見ていたなって(笑)。歌詞が故郷から旅立つ内容で、自分ともすごくリンクしていたんです。いまでも思い出します。
天崎:家族の思い出の歌なのですが、長渕剛さんの『乾杯』。子どもの頃、お風呂から出る前に、数字を数えるのではなく『乾杯』を歌い切ったら上がるみたいな家庭だったんです。そんな思い出もありつつ、今聴くと子どもの頃はわからなかった歌詞や感情が湧き出てきて「染みるなあ」って。
最近は、家族の誕生日にエモーショナルな気分になって『乾杯』を歌って贈りました(笑)。スマートフォンの音声なのですが、録音したくなっちゃって。親も喜んでいましたけど、僕にとってはとても大切な曲ですね。
今回役作りをする上で大切にしたことを教えてください。
小林:キャラクターの絵を見て、こんな声が出ていてほしいという自分なりの理想を最初に考えました。つぐるは3人でバンドをやっていたけれど、いまは仕事をしていて、少し引っ込み思案なキャラクターという設定を組みつつ、バンドが解散した理由も自分なんじゃないかな、ライブを頼まれても乗り気になれないのも……といった想像を膨らませていきました。
3人のなかでもっともセンチメンタルなキャラクターだと思うんです。でも、2人の後押しを受けて、一番の花形であるボーカルとしてチームを引っ張っていくような切り替えもある。そんな人物像をイメージして演じました。
白井:ひろはバンドでドラムをやっていて、いまは営業の仕事で駆け回っているという設定。僕にとって、営業の仕事をつづけられる人ってすごく寛容で、メンタルが強い。なので、演じる上ではおおらかさを意識しました。やめたい、転職したいとは言っても、4年はつづけている。そのあたりは役作りの上でのヒントになったかなと思います。
天崎:ベースのツッチーは、バンドを支えているキャラクター。ベースはバンド内でなくてはならない音。彼自身は飄々としてヘラヘラしているようで、意外と2人のことを見ていて、前向きになるような言葉をかけている。そんな役作りをしました。「音楽は自由だ」という話の流れに〈いいちこ〉を出してくるのも、何にも考えていないわけではないんですよね。アフレコでは、いつも3人の空気感を出せたらいいなと思って挑みました。
お酒はどのように楽しんでいますか?
小林:焼酎といえば〈いいちこ〉。実家にいつもパックであって、大人が飲むお酒だという印象が子どもの頃からありましたね。20歳になってから飲んだときも、独特のクセが大人っぽいなって。飲めるようになったら、自分も大人の仲間入りなのかなって。いまでは、年末年始に実家に帰ると、きまって父と一緒に飲んでいます。
家ではあまり飲まなくて、やっぱり飲み会。なかなか言いたいことを言えないタイプなのですが、本音を語り合いたいときはお酒の力に助けられています。背中を押してくれるアイテムなんですよね。
白井:飲み会だからこその雰囲気はいいですよね。作品でも、3人揃って会話をしながら本心を伝え合うというのは、お酒のある場ならではだと思うんです。
思い出としては、小学校の頃に、お酒のフタを集めてコマにして遊んでいたのですが〈いいちこ〉がよく回るので取り合いになるほど人気でした(笑)。そういう意味ではすごくお世話になっていましたね。
天崎:コロナ禍以前は、アフレコの現場で一話取り終わったら飲み会に行くというルーティーンがあって、すごく好きだったんです。新人だったこともあり、お酒の場でもらう先輩のアドバイスはとてもありがたかったです。
最近は家で台本が入った本棚を見ながら飲んでいます。これまでの台本は全部保管してあって「こんだけ頑張ったんだな〜」って自分の時間を楽しんでいます(笑)。「また頑張るぞ!」という気分になれます。
「iichiko story」は、ポスターを起点に物語がはじまります。ポスターについての印象をお聞かせいただけますか?
白井:吸い込まれそうな世界観が描かれていますよね。この場所はどこなんだろうという不思議さもありつつ、短く入った言葉にいつも考えさせられます。想像が広がっていくんですよね。そして、やっぱり「〈いいちこ〉のボトルはどこだろう?」って探してしまいます(笑)。
天崎:自分の故郷ではないのに、どこかノスタルジックな気分になります。僕は、家族と一緒にご飯を食べたり、団欒しながらお酒を飲んだりしている光景が浮かび上がるんです。「ちょっと連絡とってみようかな」って思うくらい。自分のなかの〈いいちこ〉のイメージとリンクしている気がします。
小林:今回の作品にも出てきたポスターも含め「青」が思い浮かびます。僕の勝手な思い込みかもしれませんが、青空は清涼飲料水のイメージで若者に向けてのPRという印象があります。〈いいちこ〉は歳を重ねてから飲むお酒という感覚でしたが、若者が飲んでもいいし、ポスターや今回のストーリーのように、もっと自由に味わってほしいお酒なんだって言われてる気がしました。作中の3人も20代ですし、若い人にこそ、もっと〈いいちこ〉を楽しんでほしいと思います。
小林裕介(こばやし・ゆうすけ)
3月25日生まれ。東京都出身。声優。代表作は『Dr.STONE(石神千空)』『Re:ゼロから始める異世界生活(ナツキ・スバル)』『Paradox Live(矢戸乃上珂波汰)』など多数。
白井悠介(しらい・ゆうすけ)
1月18日生まれ。長野県出身。声優。代表作は『東京ミュウミュウにゅ~♡(赤坂圭一郎)』『佐々木と宮野(佐々木秀鳴)』『ヒプノシスマイク(飴村乱数)』など多数。
天﨑滉平(あまさき・こうへい)
10月22日生まれ。大阪府出身。声優。代表作は『義妹生活(浅村悠太)』『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん(久世政近)』『トモちゃんは女の子!(御崎光助)』など多数。
脚本・久住昌之さん
インタビュー
前作に引きつづき、脚本を手がけたのは漫画家でミュージシャンの久住昌之さん。長年音楽に携わってきた久住さんだからこそ描ける、音楽との向き合い方、バンドでしかなしえない仲間との絆の素晴らしさを伺いました。最近ハマっているという〈いいちこ〉の楽しみ方も必読です。