キャスト インタビュー
新垣樽助さんにインタビュー。物語の印象やご自身のエピソードなど、制作の裏側に迫りました。
— 印象的だったシーンを教えていただけますか?
三森: 自分の生き方や進路を迷っていたすずかが、駅で決心をお父さんに伝えるシーンですね。その言葉は電車の音でかき消されてしまうのですが、想像が膨らむ演出で、とても素敵だと思いました。
その前のシーンの、お父さんの「何々『で』なく、何々『が』いい」も。お母さんが亡くなってしまっていることもあり、すずかにとってお父さんは引っ張ってくれる父親であると同時に、寄り添ってくれる母親のような存在でもあったのかなと感じました。
新垣: 父親は高校生のすずかを純粋に応援したい気持ちがある。でも、後に立って背中を押すというより、横で「こうした方がいいよ」と寄り添ってアドバイスするような絶妙な立ち位置なんですよね。でも現代のシーンになると、父親は完全に娘の後に下がって、見守る存在になっています。
それは、個展ですずかの作品を見て「ほお…」と感心するシーンでも。もう自分は助言するような立場ではない、すずかは自分でしっかり生きているんだと感じさせる表現なんですよね。
三森: すずかは、お父さんの言葉をずっと心に留めていたんですよね。進路を決めてから個展を開くまで、お父さんにもらった言葉が、生きる支えになっていたのかなと感じました。
— 役を演じる上で心掛けたことを教えてください。
三森: 現在のすずかは芯のある凛とした女性をイメージしました。回想シーンは思い悩んでいる10代ということもあり、少し沈んだトーンにしています。一般的に時代が異なる表現の場合、子どものシーンの方が声を明るくすることが多いのですが、今回は逆。今のすずかの方がスカッと抜けている感じを演じています。
新垣: 父親は自分の年齢よりも上の設定なのですが、家族の会話なので自然体でいこうと。役の立ち位置や心の変化を意識して演じました。お酒を飲んでいるシーンやリラックスして会話しているシーンなどもありますが、親だからといって言葉が押し付けがましくならないようにしたいと心がけました。
父親としての思いは、すずかが汲み取ってくれたらいいなというくらい。ストーリーの核心である「何々『で』なく、何々『が』いい」も、あえてさらっと。すずかが独立したひとりの女性として成長し、その背中を見守るところまでの時間の経過や心情の変化を表現したいと思いました。
— おふたりのお酒にまつわるエピソードをお伺いしたいです。
三森: 父とふたりでというのは、一回だけあるんです。成人してすぐくらい。父は美味しいものが好きで、お気に入りのおでん屋さんに連れて行ってくれたんです。ふだん父は静かなタイプなので、一緒にご飯に行って楽しいのかなって(笑)。でも、私が大人になったら一緒に行きたかったみたいで、楽しくお酒を飲んだのを覚えています。
新垣: きっと、お父さんはその後お店に行ったときに、おでん屋さんの大将に「娘さんかわいかったですね」とか言われていたんじゃないですか? 「自慢の娘なんだよ〜」って(笑)。
三森: ちょうど活動の場を舞台から声優に変えようと思っていた頃なんです。その話をしたら父は「声優はいいぞ」と。その理由が、どんなに有名になっても声優は顔がわからないから電車で移動できて交通費が安く済むという(笑)。なるほどね!って。
新垣: 私は帰省したときに兄と姉とお酒を飲むことですね。ふだん離れて仕事をしているので、お正月やお盆に久しぶりに会うと、何の話をするわけでもなく、夜中までいい時間を過ごしています。もともと成人してお酒を飲める年齢になったのを機にはじめたのですが、今では3人揃うときの楽しみになっています。
父親もお酒が好きで、近況報告をしながら飲んでいるときは嬉しそうにしています。その姿を見ていると少しは親孝行ができたかなと、自分も嬉しくなりますね。
— 『iichiko story』は、40年近くにわたって制作しているポスターが起点になっています。印象をお聞かせください。
三森: さりげない風景写真なのに、ひとめで〈いいちこ〉のポスターだとわかります。最近は都内から出かけることが少なくなってしまったので、ポスターの気持ちのよい風景写真を見ると旅の楽しさを思い出します。
新垣: ポスターを眺めていると、だんだん〈いいちこ〉のボトルが人に見えてくる。〈いいちこ〉が旅をしているような感じがするんです。また、長くつづいているクリエイティブということもあり、「あ、〈いいちこ〉だ。いつもの」という定番感、安心感を覚えますね。
三森: ポスターに添えられた一言のコピーもすごく考えさせられます。アニメーションにも出てくる「野の花は、自分で咲く」は、ストーリーとリンクしていてとても素敵だなと思います。
新垣: 控えめなのに世界観があるから想像が膨らむんですよね。だからこそ、ポスターとアニメーションを行ったり来たりしてみるのも面白い。物語の見え方も変わってきますし、〈いいちこ〉の世界が広がっていくように感じます。
三森すずこ(みもり・すずこ)
東京都出身。声優、ボーカリスト。ミュージカル女優を経て、2010年に声優デビュー。主な作品に『ヒーリングっど♥プリキュア (風鈴アスミ/キュアアース)』 『ラブライブ! (園田海未)』『オッドタクシー (二階堂ルイ)』など多数。
新垣樽助(しんがき・たるすけ)
沖縄県出身。声優。沖縄弁に堪能で、方言指導にも携わる。主な作品に『刀剣乱舞 (へし切長谷部/長曽祢虎徹/千代金丸)』 『テニスの王子様 (木手永四郎)』『僕のヒーローアカデミア (通形ミリオ)』など多数。
脚本・久住昌之さん インタビュー
自他共に認める〈いいちこ〉ファンだという久住昌之さん。アニメーション作品としての印象や、脚本の原点となった出来事といった制作の裏側から、30年以上にわたって愛飲してきたという〈いいちこ〉の思い出について語っていただきました。